分身 

分身 (集英社文庫)

分身 (集英社文庫)

富山へ退屈しのぎに持っていったお気楽な一冊。
うーん……いまいちだぁ。
主人公は鞠子と双葉という2人の女の子で、交互に彼女たちのことが語られていく。自分にそっくりなお互いに隠された秘話、特に親を巡る陰謀にそれぞれが独立にアプローチしていくお話。

以下ネタバレしながら。
どうもねぇ、クローンを巡るミステリーって多分沢山あると思うんだけど、あぁいうまだまだ実験的な医療技術をテーマの主要な伏線にするのってかなり無理があるのではないかと思う。1人の天才的な科学者の腕に頼るのも現在の医学研究のあり方を考えると無理があるし、ご都合主義も過ぎている。クローン技術の開発に関する記述も、ミステリーとして面白味がない上(大体伏線がバレバレすぎる)、説明がかなり幼稚でSFとしても読めない。著者は大阪工大出身の理系だし、内容を理解していないとも思えないから、こんな感じでいいかなとお気楽に書いているのだろう。あぁもうこんなレベルで書いて重版を重ね、もう41刷だなんて…。

もう一つ、自らがクローンであったときの葛藤なんてのも語られるが、本当にそんなのあるのか。いやあるかなぁ、確かにクローン技術を人間に応用するとしたらの議論では必ず論じられる問題だけど、どうも自分にはピンと来ない。たとえ遺伝的に同一でも全く同じようには育たないのは世の一卵性双生児を見て明らかではないか。だから、たとえ自分と全く遺伝子を持った誰かさんがどこかにいようと、その人は自分ではないのよ。他人、他人。まぁ私が鈍いのかな。血のつながりなんてどうでもいいでしょうって思ってしまいがちだし…(生殖医療には向きませんね)。

クローン人間の葛藤というものに関しては昔今は廃刊した朝日の科学雑誌「Scias」(すごく良かったのに、科学雑誌ってのは全然売れないんだから…)にあった4コマ漫画。

おちゃらけた2人の兄妹にある日両親が「大事な話がある」と。改まって切り出した話は、「実はお前たちは、わたしたちのクローンなんだよ」。
衝撃的な告白にもかかわらず、子供2人の反応は「あっそう、だから〜?」と鼻をほじりながら、葛藤のかの字も抱かない。

読んだのは大学生の時だったと思うけど、そうだよね〜って思った記憶が。

ふぅ、しかし、現状のクローンって体細胞クローンだが(核を除去した卵に体細胞核を移植する)、それって完全なクローンじゃないよねとはいつも思う話。ミトコンドリアDNAは卵に依存するし、あんな大切なものが別物なのに完全なクローンか?まぁそれを言ったらどこまでのレベルを求めるかという話にもなるけどさ。実際どうなんでしょうか。