二つの祖国

ようやく読了。

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

主人公は日系二世の天羽賢治。太平洋戦時下アメリカの日系人は敵性国民として強制収容された。それは英語を満足に話せない1世のみならず、言葉もほとんどが英語で、心もアメリカ人の多くの2世も同様だった。その中で天羽賢治は、日系人向け新聞社、加州新報で記者として働くのみならず幼少期から大学までを日本で教育受けたことから国籍はアメリカながらも日本への愛着、造詣が深く、それだけに事態に対して割り切った感情を抱くことも出来ず、苦悩を深めた。

物語は、大きく3部にわたる。強制収容所での生活、そこを出て、アメリカ軍の語学将校として戦線に赴く時期、そして東京裁判に言語モニター(英語、日本語通訳のチェック)として生活を送る時期と。

山崎豊子原作らしく、主人公は実在のモデルがおり(伊丹明氏)、賢治の抱いた苦悩が単に小説の架空の主人公であるという枠を越えて実感させられたが、正直賢治を巡る物語部分よりも、これまではっきりと知らなかった東京裁判当事者たち(被告、弁護人、検察官、検察側証人など)の人間模様と実際の裁判の様子に興味をそそられた。山崎豊子のことだから、恐らく綿密な取材に基づいて、裁判部分などは実際の通りなのだろうし、その中でこういう作品でなければ、言語モニターの役割などは意識しないだろうから余計に興味深かった。

特に興味を持ったのは、いわゆるA級戦犯たちの裁判における立ち居振る舞い、敵国人(=日本人)を弁護するアメリカ人弁護人の公正さ、単に日本人憎しで固まっていたと思っていたキーナン検事の複雑な心情と天皇訴追を回避するための法廷駆け引き、あたりだろうか。