「母」 三浦綾子

三浦綾子「母」読了。

母 (角川文庫)

母 (角川文庫)

小林多喜二の母、セキの生涯を、セキの独白という形で描写している。秋田の貧しい農家に生まれたセキの一生を描いてはいるが、中心は次男、小林多喜二の生涯でもある。
小林多喜二はいわずと知れたプロレタリア文学の旗手。昭和8年、30歳の若さで築地警察署で特高の手により拷問死した。何故小説を書いただけで死ななければいけなかったのか、教養はなくてもひたすら息子や息子に関わった人たちを優しい目で見守っていたセキの視点から当時の様子が語られる。


三浦綾子なので、セキが受洗したキリスト者だから、というのが執筆動機になっているし、多喜二の描き方も多分本物よりもずっと禁欲的(特に性欲)に描かれているのは自分としては欠点に感じる。
しかし、セキの口調は秋田弁(?)で、のんびりした風だが、独特の迫力に溢れて眼前にいるようで、あっという間に読めてしまった。


小林多喜二は正直名前だけという感じでしか知らなかった。プロレタリア文学というのも何となく手を出しにくいものがあった。共産主義嫌いだし。とはいえ、遅ればせながら「蟹工船」読んでみるかとバイト帰りに購入する。昭和初期を考えれば、労働運動も萌芽期で、共産主義的思考が労働者権利を守るという発想を得るのに必要だったのだろうなぁと考えたりする。

蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)

蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)


尚、多喜二の弟三吾は東京交響楽団の第一バイオリン奏者で活躍したらしい。多喜二が給料を投げうって、弟のためにバイオリンを買ってやる下りは感動的。
また、多喜二が売春宿から身請けした(しかし結ばれなかった)「たみ」という心優しい女性が出てきて、多喜二との関係において随分とはらはらさせられる。ほんとにいたの?