死刑執行人サンソン

当直先への往復に何か良い本はないかと本棚を探って選ぶ。今日はこれ。

日本には山田朝衛門という首斬りの名家があったが、フランスでも死刑執行人は世襲だった。パリの死刑執行を担当していたのがサンソン家。初代シャルル・サンソン・ド・ロンバル(1635-1707)から始まるこの家系の4代目、シャルル・アンリ・サンソン(1739-1806)がこの本の主人公。ルイ王朝最後の国王、ルイ16世の処刑を執行したことで知られる。
ルイ16世は、先進的で聡明、性質は温厚、愛人も作らず趣味は錠前作りと狩猟であった、フランス革命の進みによっては王制打倒がなされず民衆と上手くやっていけたかもしれない国王だった。
そんな国王をサンソンは敬愛してやまなかったから、職務とはいえ、その処刑に際しての精神的打撃はものすごかった。茫然自失に陥りながらも何とか死刑執行をやり遂げたサンソンは、贖罪の念強く、当時は革命派に知られたら即処刑になるため隠れ住んでいた、革命非宣誓派のカトリック司祭のもとを訪れては国王のために祈るようになる。
当初は、穏健に進んでいたフランス革命も次第に血に飢えた様相を呈するようになり、サンソンは短い間に2700人以上もの首をギロチンで切り落とすことになる。その中には、サンソン若かりし頃、ハンサムで教養豊かでもあった彼が誘惑した貴婦人も含まれていた。

サンソン家の死刑執行人家としての歴史は6代目で幕を閉じる。6代目、アンリ・クレマンは「サンソン家回想録」の中でその中で死刑制度の廃止を訴えている。死刑執行人の名家としての歴史も、当人たちにとってみれば、いつかはそこから抜け出したい宿命と捉えていたのだ。

面白いのは、死刑執行人として、サンソン家は人々から忌み嫌われていたが、3代目の頃までは、商家からの徴税権も認められ、裕福だった。そして、死刑執行に携わりながら、サンソン家は医家でもあり、死体解剖室があったくらいで人体構造に明るく、医療の質は高かった。そんなわけで、サンソン家というのは資産家であり、そして教養も豊かだったのだ。


フランスで最後の死刑執行(もちろんギロチン)が執行されたのは1981年。ちなみに気の毒な最後の女性死刑囚は無資格で堕胎に応じていた、主婦マリーだ。↓の映画を見たのは中学生の時。随分理不尽に感じたもの。

主婦マリーがしたこと

主婦マリーがしたこと

DVDは無いみたいだ…1989年の映画で、新宿のシネマスクエア東急でやっていました。