ローマ人の物語

塩野七生の文庫新刊「ローマ人の物語」24〜26巻「賢帝の世紀」。

ローマ人の物語 (24) 賢帝の世紀(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (24) 賢帝の世紀(上) (新潮文庫)

ローマ帝国の5賢帝時代と言えば、言葉だけは知っている。具体的には、紀元96年から、老帝ネルヴァ、トライアヌスハドリアヌスアントニヌス・ピウスマルクス・アウレリウス・アントニヌスの5人の世紀を指す。この時期ローマ帝国は領土を最大限に広げ、そしてそれ以降は衰退していくのだけれど…。

その5賢帝の中でも同時代、後世を含め最も評価の高いのが在位98年〜117年の20年に及んだトライアヌスを書いているのがこの上巻。ローマ同時代の歴史家タキトゥスは2代前のドミティアヌスを酷評したが、トライアヌスは「まれなる幸福な時代」と記した…がそれ以外を書かなかったため、実は文献資料に乏しいらしい。タキトゥスからすれば酷評すべき第二代皇帝ティベリウスや、ドミティアヌスの治世も今は結構見直されている。では、トライアヌスはどういう点がそこまで良かったのかしらんという問いかけから始まるのも塩野さんらしい。


まだ途中なのだけれど、トライアヌスはいかにもローマ的な皇帝。というのも、それまでの皇帝がローマ出身だったのに対し、彼は属州出身、かつての名門、ユリウス・クラウディウス家とも無縁で、元老院には父になってやっと所属した新興貴族。そういう人が皇帝として迎えられるのが、塩野さんいうところの、支配地域も一旦ローマに受け入れてしまえば積極的に融和していく点でローマらしいと言えるようだ。一方でトライアヌスの皇帝への出世コースは標準的。軍団長→会計検査官→元老院入り→法務官→執政官と進み、紀元97年皇帝ネルヴァの養子に迎えられて皇帝への道を確実にする。元老院とは良好な関係を保ち、実地で軍団指揮もしているから軍からの忠誠心も篤く、国民人気も高かった名君なようだ。


元老院と皇帝の関係ってのは微妙な様子。確かに皇帝は元老院の上に立つけれど、そこはそれ、機嫌を損ねたり、余りに恐怖政治をしくと暗殺されかねない。シーザーしかり、ネロしかり、ドミティアヌスしかり。元老院には皇帝弾劾システムがあって、在位したときの全ての記録を抹殺される「記録抹殺刑」なんてものまで存在する。というのを忘れていたんで23巻まで戻って確かめましたです。


皇帝が必ずしも世襲ではなくて、元々は部下として存在している者から登用される、なんてのは天皇制や、中国の皇帝制を見慣れている身としては随分新鮮だけど、そこの部分が出ているのはそういえば映画にあった。「グラディエーター」。元老院議員との微妙な関係も出てきましたね。

グラディエーター [DVD]

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ところで、5賢帝後の衰退を描いている者としては、ヨーロッパ知識人必読の書(らしい)のギボン。持っていますが途中です。

新訳ローマ帝国衰亡史

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年代記〈上〉ティベリウス帝からネロ帝へ (岩波文庫)

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読んでみたいけど、私の好きなティベリウスは悪人扱いなんだよな…。