論文捏造
実験をやっていると、どうにも気になるのが結果のばらつきである。
こうなると、いいなぁと思う曲線があるのだが、いまいちなデータがきれいな曲線を描くのを邪魔する。あぁもうちょっと値が小さければ(or大きければ)とてもいいのに、なんて考えるのはしばしば。
遺伝子研究なら、もう10サンプル、変異型があれば健常者との有意差が出るのに、なんて思う。
改ざんしたい、でもそれをやってはお終いだよなぁと自戒しつつ、データに向き合うのが研究者だが、実際にやってしまう人はいる。
- 作者: 村松秀
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/09/01
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ドイツ人物理学者、ヤン・ヘンドリック・シェーンはベル研究所に所属し、高温超伝導の分野で次々と成果を出し、2000年から2002年にかけて、科学誌「Nature」に7報、「Science」に9報という途方もない数の論文を筆頭著者で載せた。
どちらの雑誌も、普通の研究者であれば生涯で一度も載せることはできない、自分の研究を載せるのが夢、という雑誌である。そんなところに合計16報、それもわずか2年で、なんてのは通常考えられないこと。
何しろ、超伝導はエネルギー需給に対して革命を引き起こす可能性がある。超伝導は、物質の電気抵抗がゼロになる不思議な現象で、一部の物質が極低温下(-230度とか)で起こすに過ぎない。シェーンは、有機物を用いて、高温(-156℃=117K;Kは絶対零度-273℃=0Kを基準にした温度)で超伝導を記録したものだから、世界は色めき立ったのだ。しかし、実はそのデータは全て虚偽で、膨大な研究費と人員がその追試に無駄に費やされた。
シェーンは誰もが口をそろえて、「誠実な人柄で飾らず、研究熱心」という評価を口にする人。相当なプレッシャーがかかっていたにせよ、結局どうして捏造に至ったのか、その真相はよくわからない。ただ、論文が載って以来の大騒ぎには心中辛かったんじゃないの?とは思ってしまうけど。
丁寧に事実を追い、シェーンの人間性や、指導教官パドログの姿勢に疑問を呈するこの本は、筆致に迫力もあり、一気に読めてとても面白かった。論文捏造は昨年の韓国ES騒動、東大、理研、大阪大などの件もあり、hotなトピックだし。それにしても、雑誌の掲載基準なんてそんなに当てにならんのだよなぁとはつくづく思う。話題性があれば商業誌でもあるNatureやScienceには載りやすいし(といっても決して簡単ではないけどさ)、論文がその雑誌にふさわしいかを判断するレフェリーだって、必ずしも真の専門家でないときもあれば、コネが大事なファクターだったりもする。
捏造や間違いの危険が常にあることを意識しながら、いたずらに熱狂しない姿勢が大事なんじゃないですかね。
日本の大捏造事件と言えば、研究者の起こしたものではないけれど…。
- 作者: 毎日新聞旧石器遺跡取材班
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