目撃証言 悪魔を思い出す娘たち
前にも書いた2冊。
- 作者: エリザベスロフタス,キャサリンケッチャム,Elizabeth Loftus,Katherine Ketcham,厳島行雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/03/24
- メディア: 単行本
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まぁ無実の人の自白形成プロセスと非常に似ている部分もあるけど、被害者に警察の同定した被疑者が真犯人のように記憶されるメカニズムはこうだ。
①被害者によって大まかな犯人像が作られる。30代、中肉中背、白人、ひげ面である…などなど。
②警察は現場周囲を捜索し、ついに①の証言に似ている人物を署に連れてくる。
③被疑者は写真を撮られる。一定人数の同じような特徴の人々の写真と共に証人にその写真が見せられる。
④証人が被疑者をまさに自分が見た人物だと特定する。
これ以上の証拠があろうか?ましてそれを証言するのが5人も6人もいたら?ということになるわけだが、実際には各プロセスに問題が存在する。
①被害者は犯人の顔ないし、特徴をしっかりと覚えていると思われがちだが、特別に強いストレス下では注意力が殺がれ(例えば武器ばかり見続けてしまう)、記憶力はかえって弱まる。
②警察は被害者の証言に基づいて被疑者を同定するがその際に、強い思いこみがあると他の物的証拠を軽視しがちである。
③被疑者ピンナップを閲覧する際には、警察の特定した被疑者が「際だたない」ように配慮することが重要である。他に比べて大きすぎない、特徴が突出している、などが無いように、そして確実な人物同定には写真は十分な数(11人以上といわれる)必要である。
④被害者による同定の際にはそれまでに警察によって様々な誘導が存在していることが多い。実験によって、例え見せられる写真に犯人がいなくても、「この中にいますよ」と言われれば半数以上の人が「犯人」を同定してしまうことが知られている。
で、裁判でロフタス博士の証言によって記憶の錯誤が適切に認められて、無罪評決が出る事例が紹介されるわけだが…被害者にとって悲劇なのは、「被害者の記憶の中では確実に被疑者が犯人」であることが訂正されない場合があることだ。人は誰でも自分が認めた事実を間違いだと認めることに困難を覚えるもの。特に小児の性的虐待が誤って作られてしまった場合などは悲劇だ。
- 作者: ローレンスライト,Lawrence Wright,稲生平太郎,吉永進一
- 出版社/メーカー: 柏書房
- 発売日: 1999/03
- メディア: 単行本
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善良な警察官ポール・イングラムが突如2人の娘によって過去の性的虐待を告発され、断罪された事件。忌まわしい記憶は、娘のカウンセリングをしていた精神科医によって「回復」させられた。
http://members.aol.com/IngramOrg/
このような医原性捏造記憶が起こるという事実は考えさせられる。
ところで、ロフタスは様々な事件で、無罪の被疑者を助けてきたが、ある一例は証言に臨むことができなかった。
ナチス、絶滅収容所の1つにトレブリンカがあるが、そこでその残虐さからユダヤ人により「イワン雷帝」と恐れられたウクライナ人がいる。そのウクライナ人として告発された、ジョン・デムヤンユク裁判である。デムヤンユクの弁護士によれば、これは確実な人物誤認であるにもかかわらず、ロフタスは自身ユダヤ人であることも手伝って、その目撃証言の危うさに関して証言できなかったようだ。
一読者としては真実はわからないので、なんともストレスの溜まる一章だった。
ホロコースト - Wikipedia