「5千万人のヒトラーがいた!」

「5千万人のヒトラーがいた!」(八木あき子、文藝春秋)読了。辛い内容なので随分時間がかかってしまった。

5千万人のヒトラーがいた!

5千万人のヒトラーがいた!

著者は芸術家なのか、ジャーナリストなのか、ただの主婦なのか略歴を見てもよくわからない。

ユダヤ大虐殺に関して、決してナチズムのみでなく、西欧全般にあったユダヤへの嫌悪感があれを後押ししていたことを丁寧に書き連ねている。

あの時代、多くの良識あるサイレントマジョリティが加害者になっていたわけで、流れにまかされるままになることの怖さを痛切に感じた。
そんな中で多くのユダヤ人救出に力を貸した名も無きデンマークフィンランドの人々の勇気ある行為にはやはり感動させられる。彼らにとってはユダヤ迫害が自然に違和感のあることだったわけだ。プロパガンダにぶれない自分を持つ大切さを感じる。

少々面白かったのはイタリアでのこと。考えてみればイタリアは日本と同盟を結んでいたわけだが、あまり内情を知らない。ムッソリーニって独裁者がいて、愛人と一緒に殺されたよね、ってことしか知らなかったが、ユダヤ虐殺に関してはドイツの同盟国でもありながらかなりいい加減であったことは初めて知った。ローマ時代からの他民族融和の精神は生きていたということか。誉められるほどでないにしても。
ムッソリーニも戦略上愚かなことをしているが、ヒトラー嫌いだったようだし、教養豊かで、その発言は扇情的でなく、なかなか面白い。もちろん肯定される存在ではないけど。

それとカトリック教会。ナチの非道に全て目をつぶり、何もしなかったという印象だったが、そうでもなかったのかな。かなり評価の別れそうな法王の態度ではあるようで、何か他書を読んでみたい。


それにしてもこの本は記述にバランスが取れているし、出版された1983年から20年経った今でも違和感を感じない。新刊が入手できないのは実にもったいない。
ちなみに著者はこんな本も書いている。
「ドイツ婦人の家庭学」(新潮文庫)。

ドイツ婦人の家庭学 (新潮文庫)

ドイツ婦人の家庭学 (新潮文庫)

一体何をしている人なのかますますわからない…。