神経心理コレクション

「痴呆の症候学」を読む。

痴呆の症候学 (神経心理学コレクション)

痴呆の症候学 (神経心理学コレクション)

痴呆は精神科医にとっては、てんかん、と並んで神経内科医とどっちで扱うかを争っているかのような病気だ。世界的には神経内科医が扱うのだろうし、診断は彼らの方が正確だろう。が、しばしば周辺症状である抑うつや、問題行動によって診断を言う前にとにかく治療を、という形で送ってきたり、誤診されたりもする。
まぁ、こちらとしてはしっかり鑑別しなきゃね、というわけでこの本。

痴呆は従来日本では脳血管性痴呆が多く、アルツハイマー型痴呆は少ないとされていたが、現在はそうでもないことがわかっている。また、アルツハイマー型と並んで問題行動に家族が悩むのはピック病と呼ばれる、前頭葉と側頭葉に特徴的な萎縮を示す痴呆である。

痴呆の症状というと、経験してみないと果たしてどんなものやら、と思うものが多い。
例えば「滞続言語」と言われてもよくわからないが、生年月日を尋ねて、次に住所を尋ねてもまた生年月日を答える、といったそんな症状である。
他に「被影響性の亢進」は、別なことをしていたり、答えていても、質問者が首をかしげたりすると自分もかしげたり、手を挙げれば反射的に挙げてしまう、そんな症状。
「考え無精」は、「河童の川流れ」ってどんな意味?と聞くと、何も考えず「河童の川流れ」と即座に答える。ちょっと可笑しい。

そんな症状の数々を、分かりやすい解説と共にこの本は付録のCD-ROMで見せてくれる。

他に大変興味深いのは絵が趣味の人の、ピック病発症前後の絵の変化。
発症前は風景画も適度なデフォルメが絵の巧さを引き立たせているが、発症後は見たまんま、写実的で、自分の訴えかけたい思いが絵から消え去ってしまっている。
これは悲しい。


実はこの本は医学書院の「神経心理コレクション」というシリーズで、神経心理で扱う領域が非常に読みやすくコンパクトにまとまっている。

最近買った本では「失語の症候学ハイブリッドCD?ROM付」が非常に参考になった。失語も痴呆と同様、そして痴呆と区別が難しいが為、一度でも症状を「見て」いないと鑑別ができないことがある。

記憶の神経心理学 (神経心理学コレクション)」では、記憶と一口に言っても様々な種類があり、脳のどの領域が使用されているのか、この本は非常に分かりやすい。著者山鳥重、記憶を含めた認知科学の大御所である。


他に「タッチ (神経心理学コレクション)」や「手」は思わず読みたい、と思わせるタイトルだ。


手 (神経心理学コレクション)

手 (神経心理学コレクション)