ブレインイメージング MIND HACKS 脳の中の幽霊

以前も日記に書いた医学書院の神経心理コレクションの中から積ん読状態になっていた「高次機能のブレインイメージング」を取り出してみる。

神経学の一般書にはベストセラーになった「脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)」をはじめ、とても優れたものが増えている。

が、実際に研究者がどのような実験系を組み立てて、どのような画像を得て、様々刺激に対応する脳の領域や、心の動きに対応する活性化領域を探っているのか、というのはイメージを掴みにくいものだと思う。
この本には付録のCD-ROMを通じてよく話題となる脳機能イメージング手段、ファンクショナルMRI(f-MRI)を中心に、実際の実験に使われる視覚刺激であるとか、どのように結果が見えるのかという画像例を具体的に見ることが可能である。
自分自身もMRI装置を使って実験をすることはあるが、f-MRIは未経験なので目新しい。

ところで、脳機能のイメージングに関しては、例えば人の顔を見るときにはある特定領域が活性化されていることがわかった!などと華々しく報道がされることもあるが、実際に脳画像研究に携わっていると、どうも個人差がね…果たして得られた研究結果は本物なんでしょうかといった疑問に常に悩ませられる。だから、個人的には話半分に聞くことも多いのだけれども、この本の第5章には現時点での画像研究の限界に関しても言及していて、好感が持てる。例えば同じ課題を同一人に時期を変えて行うと、そのたびに活性化される領域に差が見られる。これはintra-subject解析のばらつきといわれるが、そう、その差を余りに厳密に考えていると結果なんて出せないなぁというのが研究者としての個人的感想である。そのような、測定による差を超えて普遍的真実に肉薄する結果をイメージできる頭が欲しいものであったりする。


さて、こういうf-MRIの研究の被験者になることは、機会があると、なかなか楽しい経験であったりするが、そうは言ってもその手の研究をやっている知り合いでもいない限り難しい。
最近買った「MIND HACKS」はまだ読んでいないが、インターネットの様々なサイトを通じて、自分の脳がどのように情報処理をしているのかを知ることができて面白そうだ。

Mind Hacks ―実験で知る脳と心のシステム

Mind Hacks ―実験で知る脳と心のシステム

「脳の中の幽霊」は1999年の発刊であるけれどいつ読んでも新鮮。一般科学書として自分が出会ったもっとも面白い本の1つ。
表題は事故などで損傷し、切断した手足が切断後も「存在している」と感じられる、人によっては自由自在に動かすこともでき、また幻肢痛というやっかいな痛みをもたらす現象があるが、それを「幽霊」と比喩している。著者のラマチャンドランはその幻肢痛の痛みを鏡を使った画期的装置(しかも安価)で治療していて、その方法は現実に自分が試したことはないけれど、読んで以来常に頭の中に残っている。
自分にとってこの本を読んでもっとも勇気づけられることは実は「まえがき」に書かれている。神経学という学問にとっては常に目の前の症例の特異性が、普遍化できるのかということが問題になるが、「今日でも驚くべき発見は目の前にぶら下がっている。むずかしいのはそれに気付くことだ」「高級な設備を必要としない研究なら、独力でも医療に大変革をもたらすことができる」といった著者の言葉は肝に銘じておきたい。

脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)

脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)