のだめ 小澤征爾 巨匠

退屈な当直の気を紛らすために「のだめ…」の最新刊を買うことにする。

のだめカンタービレ(14) (KC KISS)

のだめカンタービレ(14) (KC KISS)

相変わらず面白い。フランスの伝統はあるが斜陽なマルレオケの常任となった慎一がどう成長していくか気になるところ。

若い指揮者がヨーロッパを舞台にコンクールを叩き台に羽ばたいていく…といったら、この人を思い出さずにはいられない。

ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)

ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)

彼が24歳、単身ヨーロッパに渡り、当時日本では殆ど知られていなかったブサンソン国際指揮者コンクールで優勝、さらにアメリカのタングルウッドでも一位を取り、ミュンシュカラヤンなどに師事、ニューヨークフィルの副指揮者としてバーンスタインと共に日本の地を踏むまでを描いた自伝(というには若いが)。

単に旅行記として読んでも面白いし、指揮者のコンクールがどんなことを試験されるのか、というのを「のだめ」の副読本として読んでもいいかもしれない。
指揮をしながらスコアにない12個の音符の間違いを5分以内に指摘しろなんてのは相当に意地悪だと思う。

小澤は20世紀後半の2大巨匠カラヤンバーンスタインの両方の弟子でもあったから2人の個性の違いや、彼らとの付き合い方の違いも知ることができてとても面白い。

カラヤンはとても尊大な付き合いづらそうな人に見えたけれども、決してそうではなく、教えることに非常に才能があって、
「決して、押しつけがましいことは言わず…ぼくらの指揮ぶりを見た後では具体的な欠点だけを指摘した。また、演奏を盛り上がらせるばあいには、演奏家の立場よりむしろ、耳で聞いているお客さんの心理状態になれと言った」
そうだから、確かに尊敬されて然るべきという気がする。

でも、カラヤンに食事に誘われても、
「偉大さがいつもどこかに体臭のようについているので苦手だ」
という一方で、バーンスタインに誘われると、
「『オーケー』とはずむような色よい返事が出る。そして内心で、『しめた!今日はうまいものにありつける』と思う」
から、今の自分に照らし合わせると、カラヤンは教授、バーンスタインはとても敬愛しているけれど親しく話しもできるオーベン(指導医のこと)みたいなものかね、と感じる。

彼ら2人のような巨匠と言われる人は今の時代には少ないし、巨匠という言葉も現代には似つかわしくない気もするけれど、そんな人たちのことを詳しく知りたければこの本が面白かった。

巨匠神話

巨匠神話

小澤はもうこの本が出た頃には巨匠に数え上げられる1人だったから、当然出てくる。ただし、余りいいことは書かれていない。彼はボストン交響楽団の常任を随分長く勤めたけれど、忙しすぎて、十分にオケと過ごす時間を持たず、はっきりしたビジョンを持たなかったと紹介されている。

個人的には小澤の指揮はまだ残念ながら聞いたことがないけれど、室内楽の指揮ぶりをテレビで見たときは情熱的で素敵だと感じた。

カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」は愛聴盤の1つ。

オルフ:カルミナ・ブラーナ

オルフ:カルミナ・ブラーナ