町長選挙

町長選挙

町長選挙

イン・ザ・プール (文春文庫)空中ブランコときて三作目。
当直へ行きがてら、電車で読むのに最適と買う。
破天荒な精神科医伊良部先生は今度は新聞王(読売渡邊会長がモデル)、若きIT長者(ホリエモンがモデル)、女優(誰だ?)といった著名人と関わる。さらには東京の離れ小島、千寿島に3ヶ月の期限付きで看護婦マユミとともに赴任して、汚職まみれの町長選挙にまで関わってしまう。

まぁまぁかな。電車で読む分にはとても楽しめたし、伊良部先生のキャラは相変わらずで楽しいのだけれど、今回は神経症の患者がそれぞれ伊良部を上回る個性の持ち主が多くて、相対的にパワーダウンしているかのようだ。そう、今までは一般人だったのに、今回は渡邊会長にホリエモン、それにカリスマ女優だから、そもそもキャラが濃ゆい人たちなのだ。
町長選挙だけは気が弱くて町民の泥まみれの選挙運動に翻弄される、都庁の出向役人が主人公だけど。


それにしても、イン・ザ・プール (文春文庫)は衝撃的だったなぁ。
普通の読者からすると、こういう精神性の精神科医は例外なのでしょうか。
しかし、精神科医としては他のなんていうか、「患者の行動の背景には隠されたエディプスコンプレックスの姿が垣間見える」なんてフロイトさんが発見したとされる似非医学用語がちりばめられているより、伊良部さんの方が遥かにリアル。
どっかに「分析なんて無駄、無駄」っていうようなことも言っていなかったかなぁ。そうそうって深く頷いた記憶がある。大抵の小説では何だか幻想を抱いているとしか思えない精神科医が出てくるのだが、奥田英朗はどこでこういう姿を知ったのか、「患者の精神性を別段理解しようともしない距離」を持った、リアルな精神科医像を出してくれている。読んでいてとても心が休まる。もっとも伊良部先生は、最初こそ患者の言うことをまるで聞いていないようでありながら、患者の不安や強迫症状を患者の症状が掻き消えるくらいに思いっきり誇張した行動をとることで、患者に自分の神経症症状のあほらしさを気づかさせるという高度な、そして伊良部のような恥知らずでないと決してできない技を披露してくれる。

空中ブランコで出てきた、「義父のヅラを取ってみたいという強迫観念にとらわれた精神科医」である伊良部の同級生の章が忘れられない。
奥田はこれで直木賞を取ったけど、近年の直木賞ではほとんど唯一納得のいくものだった。


ところで奥田英朗のデビュー作、最悪 (講談社文庫)は今思い出してもすごかった。確か北海道へ行く飛行機の中で読んでいたのだけれど、主人公たちがまさに「最悪」な状況に次々とはまっていくのを読みながらとても辛い気持ちになった。
そして、次の邪魔(上) (講談社文庫)は、主人公たちのけなげさに涙が出た。
上手い作家だなぁ、と思う。

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)

邪魔(上) (講談社文庫)

邪魔(上) (講談社文庫)