DARK

東電OL事件から着想を得た「グロテスク」を読んだ友人M曰く、「怨念の固まり」。桐野夏生の文章は底知れない力にあふれていて、確かに世に対する怨念を抱き、それを筆力の源にしているのではないかと思わせる。


ダーク (上) (講談社文庫)

ダーク (上) (講談社文庫)

主人公は女探偵村野ミロ。私は未読だが、「顔に降りかかる雨 (講談社文庫)」の登場人物たちが出てきているようだ。今回の物語では人物たちの性格、行動にかなり違いがあり、前作までのファンには激怒する人もいるそうだから読むには注意。未読の私は楽しめましたです。

村野ミロは新宿2丁目に事務所を構える探偵屋だが、出所を待っていた恋人の自殺をその死から4年後に知らされ、憤怒の念から何かが変わる。探偵業を即座にたたみ、北海道に隠遁していた義父、善三を殺し、韓国へ逃げる。それを善三の内縁の妻久恵と、ミロの隣人で同性愛者の友部、善三の盟友鄭らがそれぞれの復讐心、打算を抱きつつ追っていく。


読んでいて凄まじいなあと感じるのは登場人物たちの変貌ぶりである。それぞれが元々持っていたであろうキャラクターを物語の最初で語り、十分にそのイメージを育ませた後急速にそれを破壊していく。
とりわけ、盲人でマッサージ師でもある久恵の変貌ぶりといったら!けなげに、それでいて芯の強い、一心に善三を愛し、愛される。そのステレオタイプなイメージに安心して読んでいると強烈に裏切られていく、その狂い方に圧倒されてしまう。

それに比べると、ミロ、鄭は一貫している。ミロの破壊的でありながら情にあふれた生き方の方が余程けなげ。

ついでに、善三から見た久恵、それ以外の人間から見た久恵の描写の相違が面白かった。人の認知というのは、そこに込める感情の違いでこうまで異なるのかというのを書いてくれている気がする。

この本をくれた読書友人Kは「ミロに全く共感できない」と言っていたが、自分にはとても良かった。


さて、桐野夏生の凄まじさを堪能するなら断然↓です。

グロテスク

グロテスク

よくここまで人の持っている、自分が認めたくない暗部を描ききっているなぁと感嘆してしまう。誰でも最初は無垢なはずの赤ん坊がどうしてこうなるまでに育ってしまうのか、人間って不思議だ。


桐野夏生と同じように迫力ある筆力を持ちながら、基本的に彼女ほど人の暗部に焦点を当てるのではなく、明るい物語も書き、その分(か知らないが)駄作も多いと感じる作家は篠田節子。「女たちのジハード」と「弥勒」はとても良い。桐野夏生(本人ではないかもしれないけど、登場人物たち)が世に怨念を抱いているとすれば、篠田節子は多分、人の持つ善意に信をおいているのだと思う。

女たちのジハード (集英社文庫)

女たちのジハード (集英社文庫)

弥勒 (講談社文庫)

弥勒 (講談社文庫)


桐野夏生の対極、といえば北村薫かなぁ…。
系譜を引き継いでいると思ったのは「蛇にピアス (クイーンズコミックス)」の金原ひとみ文藝春秋で読んだとき。今はどんなのを書いているのでしょうか。