犬 ペット

そろそろ読んでいない蔵書を読むかという気分になり、当直ついでに二冊。


日本の飼い犬の歴史は縄文時代にまでさかのぼる(当たり前のような気もするが…)。
愛媛県上黒岩洞窟(8500年前)、宮城県の田柄貝塚などからは埋葬された犬の骨が発見される。牛や馬は弥生時代になって朝鮮半島経由で来たから、犬の家畜化はずっと早かったのだ。犬を飼う用途は主には狩猟のためであったろうが、食用のためでもあった。弥生時代には埋葬された形跡はぐっと少なくなり、食用にされた跡がうかがえる骨が多く見つかるという。


そもそも人と犬の関係は、食い食われる弱肉強食関係であった。薩摩では「えのころ飯」といって、子犬の腹を割き、臓物を取り除いて飯を詰め、竈で焼いて、それに汁をかけて食べていた。「日本史」著者のルイス・フロイスの記述にも「日本人は家庭薬として犬を見事に食べる」とあったりする。
人が犬を食べる一方で、犬も人を食べていたのは絵巻物などに描かれる犬の図を見るとよくわかる。捨て病人、捨て子のそばには、もっと弱ったら食ってやろうと狙っている犬の絵が描かれる。そういった人を食べた犬が一部をくわえて貴族の邸宅内に入ってくることがあり、「昨入れ(くいいれ)」と呼んで忌み嫌われた。


尚、いわゆる日本犬というのも実は狩猟用に選別された、どちらかというと異形の犬たちであって、本来日本にいる犬たちというのは、臆病で用心深い痩せ犬が一般的だった。成る程、絵巻物の犬たちに立派な「日本犬」なんて描かれていないものね。


ヒトはなぜペットを食べないか (文春新書)

ヒトはなぜペットを食べないか (文春新書)

こちらも犬を始めとしたペット文化論。最初に犬や猫など現在日本や西欧では食されないペットたちをヒトがいかに食べていたかの記述が続く。西欧では犬を食べない印象が強いが、そんなことはなく、一部の者は食べていたし、飢饉ともなればやはりそこには弱肉強食関係が存在した。一方で猫食の文献は数少ないようだが…。


犬猫食に関する記述の後は、食と性のタブーが不可分であることを論じつつ、様々な文明下での風俗がわかるので、雑学が身に付く良い本ですね。それにしても人間は、動物を可愛らしいと愛おしむそのすぐ後に、同じ動物の肉をパク付けるとても矛盾だらけの行動ばかり、とは思う。昨日徳島で救われた犬もその話自体は別にいいんだけど、一方でああいう「美談」に乗らなかった犬たちは薬殺されていくんだから。